動機づけ面接(MI)では、クライエント自身が変化への意欲を高めることが非常に大切にされます。そのための重要なアプローチの一つが、「矛盾に気づかせる (Develop Discrepancy)」という技術です。
これは、クライエントの現在の行動や状況と、クライエントが心の中で望んでいる未来や目標との間に存在するズレ、つまり矛盾に焦点を当て、それをクライエント自身に認識してもらうことを目指します。
たとえば、あるクライエントが「健康的な生活を送りたい」と強く思っている一方で、「ついつい毎日夜食を食べてしまう」という現状を抱えているとします。
この時、MIの面接者は、頭ごなしに「夜食を食べるのは健康に悪いですよ!」と指摘するのではなく、クライエントの言葉を丁寧に拾い上げ、次のような問いかけを試みます。
「〇〇さんは、健康的な生活を送りたいと強く思っていらっしゃるのですね。一方で、今は毎晩夜食を召し上がっているとのことですが…」。このような問いかけによって、クライエントは自身の言葉で語った「願望」と、現在の「行動」との間に、客観的に矛盾が存在することに気づきやすくなります。
重要なのは、面接者が一方的に矛盾を指摘するのではなく、あくまでクライエント自身の言葉や語り口に基づいて、その矛盾を映し出す鏡のような役割を果たすことです。このプロセスを通じて、クライエントは「変わりたい」という気持ちを内発的に強めていきます。
なぜなら、外部から指摘された変化ではなく、自身が認識した矛盾を解消したいという自然な欲求が生まれるからです。矛盾に気づくことは、現状維持の心地よさから抜け出し、変化への第一歩を踏み出すための強力な動機付けとなるのです。
ただし、このアプローチは、クライエントを責めたり、追い詰めたりする意図で行われるべきではありません。あくまで、クライエントの自己認識を高め、主体的な変化を促すための、優しく、共感的なコミュニケーションの中で行われるべきです。
クライエントのペースに合わせ、丁寧に矛盾を探り、共有していくことが、MIにおける「矛盾に気づかせる」技術の核心と言えるでしょう。